日本では「精子・卵子・胚の提供による生殖補助医療」が法制化されておらず、ごく一部の医療機関を除き、日本産科婦人科学会からの会告に従い自主規制を行っている状況です。やむなく国外での卵子提供を選択するご夫婦も……。『宏孕(ホンジ)ART クリニック』(台湾・台北)のホームページにも、「海外の不妊治療専門クリニックの中で日本からの患者様に多くご選択頂いているクリニック」との記述があります。なぜ台湾なのか、なぜ宏孕なのかを院長の張宏吉先生にうかがってきました。
台北市内、台北松山空港からタクシーで10〜15分という好立地にある『宏孕ART クリニック』。台湾桃園国際空港からでもタクシーで40〜50分でアクセス可能です。
待合室は、モダンな内装でありながら、上品な赤色のソファーが空間に温かみを醸し出しています。その窓からは、台北のシンボル的存在の超高層ビル『台北101』が臨めます。
診察室に入り、張宏吉先生から手渡された名詞には、あえて日本風に読んだ「ちょう こうきち」とのフリガナが添えられていました。その響きに親近感を覚えつつインタビューを開始。海を越え異国の病院に辿り着き、ずいぶんと緊張しているであろう日本人の患者さんも、この名刺にはホッと気持ちがほぐれることでしょう。
台湾人である張先生のファーストネーム「宏吉」の中国語読みは「ホンジ」。「吉」の文字を、同じく「ジ」と発音する「孕」(子を宿すという意味の「はらむ」)に置き換えたのが、クリニック名の由来なのだそうです。クリニックのロゴのたんぽぽの綿毛は、「希望の種をまき、多くの悩める方に幸せを運ぶこと」をミッションとするクリニックの理念を表現しています。
「『宏孕ARTクリニック』が日本人のご夫婦に選ばれているのは、卵子提供という重大な意思決定が必要になる局面で、日本人スタッフの存在が細やかで正確な説明を可能にし、患者さまに安心して治療を受けていただけるということと、やはり何といっても医療水準の高さにあると思っています。これまでに当院では、約300名が卵子提供を受けておられますが、その7割以上に当たる200名以上が日本の方です。
実は私、台湾大学の医学部を卒業したあと、生殖医療を学ぶため米国に渡り、2001年から2007年までニューヨーク大学で研究員として働いていたんです。最初はただ学ぶだけの立場でしたが、私が渡米する直前までの2年間、膠着状態にあった重大な研究の結果を1カ月で出すことに成功したんです。その研究実績が認められて雇ってもらえることとなり、グリーンカード(米国における外国人永住権)も取得しました。ところが高齢の父を介護することになり、台湾に戻ってから、なんとかこの国にニューヨークレベルの生殖補助医療が提供できるクリニックをつくりたいと一念発起し、2012年、台北に開院したのが『宏孕ARTクリニック』です。
アメリカ全土での卵子提供での出生率は40.5%、その中でも高水準とされるニューヨーク大学(全米ランキング第4位)の値が44.5%という状況にあって、当院の出生率は61.68%なのです。当院が、このような高い成績を実現できるのは、ドナーの平均年齢が25歳前後と若いこと、一人のドナーから採れた卵子はすべて選んだレシピエントさんのものになるので移植の機会がアメリカの場合よりも多いことなどもありますが、胚培養室の設備や環境が整っていることはもちろん、私自身が開院以来、生殖医療と不妊症のスペシャリストとして一切の妥協をしてこなかったからだと自負しています。
厳しすぎたのか、スタッフ側から“先生、ここは台湾ですから……”とクレームが出ることもありました。でも、その甲斐あって現在、当院を支えてくれているスタッフはニューヨークの治療施設に引けを取らない精鋭ぞろいです。また、医師で胚をさわれる人間は珍しいのですが、私にはニューヨーク大学での研究者として7年の経験がありますので、受精させる、凍結させる、融解させるといった胚に関することもプロ水準の対応ができます。もともと優秀な胚培養室スタッフですが、直接、ニューヨーク仕込みの私が指導している点は、他院にはない『宏孕ARTクリニック』の強みといえるでしょう」
『宏孕ARTクリニック』の治療クオリティには驚かされましたが、張先生の研究者としての実績もまた驚異的。世界TOPレベルとされる米国生殖医療学会(ASRM)で12本の論文を発表、スピーチ(講演)も6年連続で経験されています。『宏孕ARTクリニック』で提供される医療の質の高さ、対応力に期待が持たれます。
ここ数年、日本人が卵子提供目的で訪ねている主な国としては、台湾のほかにタイやアメリカなどがあります。とくに台湾に行かれる患者さまが増えていると聞きます。それはどうしてだと思われますか?
「今、卵子提供を希望される日本人ご夫婦の多くが台湾に来られているのは、ドナーが同じアジア人であるということもあるとは思いますが、すでに2007年に法整備がなされ、運営が国営で行われているという点に大きな安心感があるのだと思います。タイなども法整備はなされていますが、運営は私営。アメリカの医療水準は高いですが、法整備されておらず、運営も私営で費用も高額です。国営による卵子提供が実施されているのは、台湾だけなのです。しかも、エージェントを頼らずとも、直接、クリニックと患者さまがやり取りできますので、余分な費用が発生しません。
とくに『宏孕ARTクリニック』には、日本語の通訳スタッフが5人おり、うち4人が日本人(残る1人は日本語が堪能な韓国人)ですので、重大な決断のために必要な情報を正確につかんでいただくことができます。ご夫婦のお気持ちを細やかに汲み取ることができ、意思疎通もスムーズです。異国の地で卵子提供を受けるという、ただでさえ神経を使う治療に大きな不安をお感じになることと思いますが、応対するスタッフが日本人ということでずいぶんストレスも軽減されるのではないでしょうか」
アメリカの場合は、1回あたりの治療費が500万円以上になることが普通で、タイでも200〜300万円とされていますので、台湾の費用は、これまで繰り返し繰り返しARTに挑戦し治療費に多くを投資してきたであろうご夫婦にとってありがたいことでしょう。
ドナーの方は今、どのくらい登録されているのでしょうか?
「現時点で、当院には200名ほどのドナーが登録されていますので、初診来院時に8〜10人のドナーの中からマッチングさせていただくことができます。少数ですが、日本人ドナーもおられます。台湾の法律では、ドナーの条件は20〜40歳未満となっていますが、当院のドナーさんは32歳までの方となっています。毎日、数名のドナー希望者が登録に来られるほか、月に1回、台北でドナー希望者の方の登録説明会を開いており、毎回20、30人がご参加されています。ドナーは、感染症や染色体検査、遺伝性疾患や性病の有無、健康状態のチェックのほか、卵巣機能を調べるためにAMH(抗ミューラー管ホルモン)を含むホルモン検査を受けています。AMHの値からは排卵誘発剤への卵巣の反応性が推察されますので、当院ではAMHが2ng/ml以上ない方は、卵子が十分な数、得られない可能性があるとして、ご登録をお断りするようにしております。
今では、ドナーを厳選することができていますが、開院当初はドナーを探すのも一苦労でした。若い人の集う映画館に卵子提供募集のチラシを置かせてもらうため、来る日も来る日も通っていると、ある日、ついにお一人目のドナー希望者が来院されたんです。チラシを見て来られたのかと聞くと、“いえ、私は映画館の従業員です。先生があまりに熱心に通われているので気の毒になってきました”と……。以降は、当院がドナーの負担を最小限にする配慮をしていることも口コミで広がり、次々、登録者が増えていきましたが、ありがたいお一人目の協力者でしたね」
「2014年2月、当院で卵子提供を受けた日本人の患者さまに待望の赤ちゃんが誕生しました。日本人レシピエント(提供を受ける側の患者さま)第一例目です。その後、日本でのART治療で大変な経験をされながらも、ついに活路が見出せなかった方が、次々と当院で卵子提供を受け、無事、赤ちゃんを出産なさっています。10年もの間、不妊治療を受けて来られた方、体外受精を30、40回と繰り返された方、最高は72回という方も、早発閉経(POI)になった方、50歳前後の方、みなさん、身も心も疲れ切った状態でこの診察室に来られます。日本からの患者さまは、ほとんどの方が、このような壮絶な治療を続けるために、泣く泣く仕事を辞めてしまっておられることも胸が痛む事態です。赤ちゃんがなかなか授かれないだけでなく、幼い頃から夢だった仕事、生き甲斐に感じていた仕事さえも失い、悲嘆にくれている人ばかりでした。どうかお仕事は辞めないでください。日本では卵子提供という選択肢がほぼないに等しい状況で、ARTを繰り返す以外に手段がないとはいえ、30回も不成功になった方に、“それでは、また次周期も頑張ってください”といい続けられますか? それが親身になっているといえますか? 担当医にも、長い間、難しい顔をされてきたのでしょう。私が“大丈夫、貴方はきっとお母さんになれます!”と伝えますと、みなさん驚いた顔をされてポロポロと涙をこぼされます。
患者さまに、10代で癌になり、抗がん剤などによる治療で卵巣機能がダメになってしまった女性がおられました。恋人にも子どもは産めないことを伝えましたが、その男性はそれを承知のうえで、一緒にいるだけでパワーがもらえる女性だからと、結婚を決意されたそうです。ご夫婦で当院を訪ねてくださったので、私は女性に尋ねました。“貴方は、ご自身のことをかわいそうだと思いますか?”と。すると、彼女が“もちろん、そう思ってきました”と答えたので、私は、こんな話をしました。“医師である私から見れば、貴方はちっとも不幸ではありません。癌を乗り越え、こんなにも貴方を大切に思ってくれる男性に巡り会えたのですから。貴方は卵子がないだけ。私たちは貴方にドナー卵子を提供できます。その卵子とご主人の精子で得られた受精卵(胚)を、貴方の子宮に戻します。妊娠期間の10カ月、貴方と赤ちゃんは胎盤を通して、酸素や栄養、そして互いのDNAをもやり取りします。生まれてくる赤ちゃんは、貴方のDNAも持った赤ちゃんなのです。そう、貴方は、もうじきお母さんになるのですよ”と……。
今、当院では、子宮はあっても卵子を持たない『ターナー症候群』の患者さまも、数名卵子提供治療を受け、妊娠に向けてがんばっておられます。その切実な思いに、私たちはどうにかお応えしたいと思っています。
定期的に日本の主要都市でレシピエント向けの卵子提供セミナーを行っていますので、具体的な治療の流れが知りたい、私や日本人スタッフと直接話してみたいという方は、ぜひ足をお運びください。また、日本人でドナーになってくださる方も募集しています。
台北までは、飛行機で3時間です。人生を変える一歩を踏み出してみてください」
張先生は、出会った人を元気にさせます。かつて『宏孕ARTクリニック』のドナー登録者1号となった映画館の従業員さんも、張先生から伝わる熱意に心動かされたのでしょう。たくさんの検討を重ね、「やはり卵子提供しかない」と思われたご夫婦は『宏孕ARTクリニック』の扉を開けてみてください。確かな自信とエネルギーに満ち溢れた張先生と、ハートフルな対応のスタッフが、ご夫婦に新たな希望をもたらしてくれることでしょう。
<『宏孕ARTクリニック』ドナーさんへのインタビュー>
この日は、卵子ドナー経験者のAさん(26歳)が、取材に応えるべく来院し、私たちを待っていてくれました。まつげエクステンションの美容師をされているというAさんは、大きく澄んだ瞳の、とてもスタイルの良い、綺麗な方でした。台湾の法律では、卵子提供を受けるご夫婦が知ることができる情報は、私たちドナーの血液型と肌の色、民族(台湾人か、日本人か、など)の3つのみ。2016年秋にドナーとして『宏孕ARTクリニック』で卵子提供を行ったAさん。その結果、妊娠されたかどうかは、まだ訊いていないといいます。
「出産される頃になったら、私の提供した卵子で、ご夫婦の間に無事に赤ちゃんが誕生したのかどうか、ぜひ尋ねてみたいと思っています。卵子を提供したドナー側が知ることができるのは、唯一、結果だけなのです。どのご夫婦に提供されたのかということは生涯知ることはできません。もちろん気にはなりますが、望まれて生まれ幸せに育ってくれたら嬉しいと思って提供を決めましたので……。
卵子提供を待つご夫婦がいるという話は、親戚の女性から聞きました。彼女自身は糖尿病があってドナーになれないから、“あなたが力になってあげたらどう?”ってすすめられて……。
私の前の職場に体外受精を受けている同僚がいましたので、治療や不妊症の辛さは彼女からよく聞いていました。それを何十回もチャレンジしてきたご夫婦がいると知り……、そんな方々の役に立てるならと卵子提供をしてみようと思い立ちました。お付き合いしている彼にも相談しましたが、それは素晴らしいことだねって応援してくれたんです。
クリニックを選択するうえで決め手になったのは『宏孕ARTクリニック』のスタッフは、私たちドナーへの配慮が細やかで、対応が良いというインターネット上の口コミでした。卵巣刺激も採卵も初めての経験で、怖さや不安もあったので、しっかり説明してもらえて、治療中、気分が悪くなってもすぐにケアしてもらえるところがいいと思って選びました」
エッグドナーに登録してから採卵が終わるまでのことを聞かせてください。
「マッチングを待つ期間(レシピエントに選ばれるまでの期間)は、3ヶ月間で、ドキドキしながら待ちました。決まったとの連絡を受けて、約2週間、毎日のように卵を育てる注射を打ちました。21〜23個の卵胞が育って、おなかがかなり張りました。座った姿勢で施術する仕事なので、採卵が近づいてきた頃はだいぶ苦しかったですね。採卵は怖かったのですが、全身麻酔でしたので、目が覚めたらすべてが終わっていて、あっという間という印象でした。採卵後数日は、おなかの張りが残りましたが、たくさん卵子が採れたと聞いて嬉しかったです。
私が卵子を提供させていただいたご夫婦に、元気な赤ちゃんが生まれてきてくれて、お二人の夢が叶うことを祈っています。私も、いつかきっと自分の夢を叶えたいと思っています。未知の体験なので不安もありましたが、思い切ってやってみて本当に良かったです。周りの友人たちにも、こんな形で人助けができることを知ってもらいたいと思っています」
終始、きらきらとした笑顔でお話くださったAさん。まっすぐ取材班を見つめる澄んだ眼からは、「人を助けることができた」という満足感が見て取れました。
現在、日本で卵子提供を行っているJISARTやOD−NETなどの支援団体のガイドラインでは、「ドナーは無償」、「子が出自を知る権利を認めること」などが条件になっています。台湾では、「ドナーは有償」、「子が出自を知る権利を認めないこと」を条件にし、さらに法制化していますので、このあたりの考え方やドナーの選択方法(JISARTは自身で姉妹や友人などの協力者を捜索、OD−NETはマッチング委員会が選択、台湾は患者さんの希望に合うよう病院が選択)などは大きく異なります。その違いを熟知し、また熟慮することは重要ですが、そもそも国内での卵子提供のガイドラインでは適応にならない患者さんもおられます。そのような方々にとっては、国外という選択肢が一縷の望みという状況なのです。
ホームページより
院長の張宏吉は、アメリカ・ニューヨーク大学(NYU Fertility Center)で6年間常勤科学者を務め、不妊治療の最先端技術を研究した生殖医学と不妊症の専門家です。当院の治療レベルはニューヨークと同じレベルで、信頼のおける治療を受ける事が出来ます。これまでにおよそ300名が当院で卵子提供治療を受けられ、そのうち7割以上の200名以上が日本の患者様です。当院の妊娠率は75%強、出産及び妊娠継続率は60%を上回ります。海外の不妊症治療専門クリニックの中で日本からの患者様が一番多いクリニックです。
2005年には、人類卵子凍結技術発展の成功事例が全米NBC TVで報道され、張医師が卵子紡錘体検査を行う映像が何度も現れました。センター在任期間2002-2007年の間に、人類生殖分野最高権威・アメリカ生殖医学会(ASRM) で6年続けて12編の研究論文を発表し、また学術会議でも講演を多数行いました。
2013年には朝日新聞で当院が一面で紹介されました。
その後2014年にはTBSニュース23の取材を受け、当院で卵子提供治療を受けた日本人の患者様の密着取材の様子が放送されました。
2016年には中国新聞でも当院の卵子提供治療の成果が大きく取り上げられ、大変話題となりました。
院長の経歴
・1986-1993 台湾大学医学部卒業
・1995-2001 台大医院産婦人科
・2001-2007 米国ニューヨーク大学病院の生殖医療センター研究員
院長の研究成果
学術論文及び演説
人類生殖分野最高権威・アメリカ生殖医学会(ASRM)で6年続けて12編の研究論文を発表するだけでなく、同学会で11回に渡り演説を行った経歴を有する。
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